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美しき街の成り立ちを知る - 塩野七生さん『海の都の物語 1』

8 August, 2021
美しき街の成り立ちを知る - 塩野七生さん『海の都の物語 1』

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小さい頃から憧れの街であるベネチア。

まだ自分が小さかった頃、テレビでたまたまやっていたNHKの「世界ふれあい街歩き」で初めてヴェネチアの街並みを見た時に、とんでもない興奮の念を抱いたことが忘れられません。

石畳の道、朱色の屋根、カラフルな壁の家々、程よい緑と鮮やかな花が街を彩る植え込みや軒先の花壇の数々に釘付けになりました。それからというもの個人的にヴェネチアには強い憧れの念があります。

シリーズとなる塩野七生さんの『海の都の物語』では、そんなヴェネチアの成り立ちから、中世のヴェネチアがいかにして繁栄をしていったのか、塩野さんの視点でヴェネチアを解き明かしてくれます。

海の都「ヴェネツィア共和国」の誕生


先述の通り『海の都の物語』はシリーズで刊行されており、全部で六巻からなります。

1巻目となる本書は、今でこそ華やかで魅力的な観光地ともなっているヴェネチアの成り立ちや、海洋都市としてどのような発展をし、どのような自国防衛をしていったのかといった視点での話が中心です。

ヴェネチアという都市は水の上に立つ大きな都市でありますが、なぜヴェネツィアは陸ではなく水上に街を発展させたのでしょうか。また、水上タクシーとも呼ばれたりするようなゴンドラが多数街の中を行き交うほど、ヴェネチアの街は「水路」が張り巡らされています。

なぜこんなにもたくさんの水路が街の中を這うように廻らされたのでしょうか。こういったヴェネチアの基盤となる部分のなぜ?についてを歴史的な視点で深く読み解いていけます。

また、中世ヨーロッパの史実が絡んだ内容の書物などを見てみると、よく目にするのものとして「十字軍」の存在がありますが、本書では、そんな十字軍とベネチアの関係についても綴られています。

海上都市ヴェネツィアとしての力


こうして歴史的な視点でもってヴェネチアを見るまでは、歴史のある美しき街であるという認識だけでありました。ですが、そこには感動も覚えるほどのヴェネチア人たちの知識や知恵、工夫や幾多の攻防によって全てが成り立っていることを思い知らされます。

中世の時代においてヴェネチアは一つの独立した国家として存在していたようでした。海上都市であり、周りは海に囲まれていますから、当然土地や食料には限りがある状況であります。

そうした状況の中において自国の安定した繁栄を築いていくためには、国としての統治だけでなく、諸外国との交渉や貿易をうまく行なっていく必要がありました。それだけに、ヴェネチア国内外問わず行われたていたとされる諸々の公共事業や、民間の商売は本当に巧みなものであることがわかります。

世界で初めて複式簿記が発明されたといわれるのもヴェネチアでありますから、そうした技術が生み出されるのも納得な気がするのです。また、ヴェネチアは海上における貿易路の整備を徹底することで、物品の流通が滞りないようにすることに全力で努めていました。

そのために、地中海各地の港を整備することで、水上の交通路を整備していきます。こうした発想は、ただ行って帰っての貿易のあり方とは違い、徹底したシステム化の形であって、非常に強い感動を覚えながら読み進めていた自分がいました。こういったところに、長い間海洋都市として存在し続けた一つの要因があるのだろうと思うのです。

そして、本書を読み進めていると、後半に登場する「十字軍」について、より理解を深めたい思いに駆られます。聖地であるエルサレムの奪還に向け組織されたこの十字軍の成り立ち云々や、どのような歴史がそこにあって、どのような思想、心理的葛藤なんかがあったのか。大変気になるところです。

本書からは、十字軍とヴェネチアとの契約を通して、国家事業として十字軍との関係をどう捉えていたのかを知ることができます。当時海上輸送を含めた強力なバックアップを担うことになったヴェネチアは、ただ協力するだけの姿勢を条件とせず、考え抜かれた計算がその契約条件にはあったと思うのです。
中世の独立国家としてのヴェネチの印象は、とにかく”徹底”の姿勢であったというのが大きかったと感じます。

そうした姿勢がなければ、今日のヴェネチがまた違った形になっていたかもしれないと思うと、感慨深いものです。

About the Author

suda

suda

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知的好奇心旺盛な20代。多趣味で、読書とプログラミングが好き。夢は妻と併用の木の温もりを感じる書斎を設けること。