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最近のAmazonのおすすめ商品機能にはやられっぱなしです。
本書『カフェから時代は創られる』も、そんなAmazonのおすすめ機能に出てきた本でした。商品説明に書かれている内容と、その表紙のデザイン、色使いの感じから予想する本書の世界観に惹かれて購入しました。
こうした社会学的な本といいますか、民俗学とかにも入るのでしょうか?そんな類のものが好きです。読んでいると、自分もカフェに行って新たな繋がりや経験を得たいと、そんなことを感じさせられた一冊でした。
著者の飯田美樹さんはカフェ文化を研究されており、実際にご自身が留学されたときには、1日に何度もカフェへ通われたご経験があるそうです。京都大学大学院でカフェの研究をなされ、2008年に『caféから時代は創られる』を出版されました。本書はその改訂版となります。
20世紀前半のパリでは私たちも知っているような有名な人物や、多くの活動が生まれていきましたが、そうした人物や活動が生まれていった元となる部分に「カフェ」があったのではないかといった視点で飯田さんは本書を展開されていいます。
現代の私たちがカフェと言われて想像するのは、知人とお茶をしながらお話をする場所といったイメージや、最近では「映え」という言葉で表されるようなおしゃれな空間をイメージします。ですが、当時のカフェは現代の私たちが抱くカフェのイメージや価値観と少し違ったものがあったようです。
乳白色の肌の女性を描かれていることでも有名な藤田嗣治や、ピカソ、ヘミングウェイ、ボーヴォワールといった先人たちの回顧などを元に、カフェがどういった働きをして、彼ら彼女らを支えていたのかが分析されています。
また、数多くの参考文献が引かれ、本書の最後には、発行人の方が制作においてこだわりをもって取り組まれた部分も列挙されており、本全体としても大変素敵な一冊です。
当時のカフェは、現在の「サードプレイス」という考え方の様な存在だったのだと思います。
飯田さんは文中様々なところで「避難所」という表現をなされていますが、何者かになろうと志をもった方々にしてみると、当時のカフェは救いの場とも言える避難所のような場所だったようでした。
そこには大きく二つの理由から、カフェが避難としての機能を担っていたと私は理解しました。
まず一つ目に、自分自身の価値観や考え方が周りとは違っていて、それが認められず、のびのびと自身の活動や探究を深めたいとき、カフェという場所が最高の役割を担ってくれる避難所となっていたということです。
自身の時間をとることができるのはもちろんですが、カフェというパブリックな空間には多くの人たちが集まってきます。
同じように「自身の居場所」を求めて集まる同士も多く、似た価値観を持つ人々と、その場で多くの議論をすることができました。これらのことが、志をもつ者をより高めると同時に、精神的な居場所と成し得ていました。
当時のカフェは一杯のドリンク代さえ払えば、皆平等に場所と時間を手に入れられるもの。
カフェによって差異はあったのかもしれませんが、ドリンク代・コーヒー代を支払うことさえしていれば、追い出されることがありませんでした。
本文中には、カフェで使われていたカップやお皿など、様々な備品を夢に向かおうとする人物が盗んで自分のものにしても、カフェのマスターは咎めることをしなかったといった様なエピソードも綴られています。
画家をはじめ、まだ無名でお金もなく、家にいても寒い時期には暖をとるための費用もいったりするといったことから、こうしたカフェの存在は物理的にも自身の居場所を確立してくれる場所であったことが伺えます。
その当時とは時代背景も、価値観も、世の中の仕組みも違うため、カフェが完全な「避難所」として同じような役割を担ったり、カフェに秘められる魅力を同じ様に享受することは困難かもしれません。
ですが、当時もそうであったように精神的・物理的な避難所としての機能は、サードプレイスという言葉が使われるようになってきた今、エッセンスとしても大いに取り入れることができる気がしています。
これはカフェに限らず、コミュニティ運営をしていく時や、その他の業態の飲食店運営なんかにも当てはまるかもしれません。
また、その当時は文化発展の核となったものとしてもう一つ「サロン」が存在しました。文中では、サロンを運営する中心人物と、カフェを運営するオーナーそれぞれの立場の違いも明確に記されています。より活発な創造が行えるコミュニティを運営するためには何が必要なのか、この点についても知見を得られるような気がしました。
それぞれのカフェには「文学カフェ」「哲学カフェ」といった様な形でカフェに特色が現れていた様で、カフェという場所が多くの議論を呼び、文化の発展の場となっていたことがわかります。
今の時代においてはSNSをはじめとして「共有」できる方法が増えてきたため、昔のようなカフェの力は薄れてきている部分もあるかもしれません。ですが、カフェだからこそ生まれるリアルな議論や出会いは今でも少なからず創造できると考えます。
「〇〇の会」といった集いを開いて交わされる情報や議論、出会いとはまた違い、カフェのマスターや常連の方々、その場に居合わせた人たちから形成される独特の緊張感や空気感、それらが織り成されることで生まれる議論や出会いには違った魅力がある様な気がしています。
---パリの歴史的なカフェの様なお店だけでなく、近頃は「喫茶店」も探すのが難しかったりもします。
そんな素敵な居場所を私自身も見つけてみたいなと、切に思いながら本書を読み進めました。
私自身も大きさの大小あれどコミュニティを運営する機会が来れば、こうしたパリのカフェに見られる「理由」も参考にしてみようと思います。