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2020年、丸の内の丸善本店でこの本を見かけた時から、表紙のデザインといい題名といい、なんだか気にはなっていました。その時は手に取らなかったのですが、少し前に知人が本書を手にしているのを見て、やはり読みたくなって購入することに。
あの時丸善ですぐ手にしておけばよかったと読了した今、少し後悔しています。
伊坂さん自身、作家としてのお仕事を続けてこられた一つの成果とも述べられている本作は、生きる上で、人として大切なことを考えさせられる短編集です。
本書は、小学生の子供たちや、小学生から社会人となった少年少女たちを主人公とした五つの短編作品で構成されています。
個人的な先入観や価値観に基づいて決めつけをする教師と対峙する話、いじめをする女子といじめをされる女子の話、同じバスケチームの男の子たちの成長と変質者の話など、小学生の生活の一部から多くの物語が生まれています。
それぞれの話は難しい内容や展開ではないものの、人として生きる上で欠かすことのできない道徳心であったりとか、相手を思いやる気持ちといった普遍的で重要な内容がテーマとなったもの。
帯コメントには「人生の教科書のような物語」といった表現も見られますが、まさに、作中に登場する登場人物たちに合わせて自分も物語に入ってみると、大変多くのことを学ぶことができる一冊です。
登場人物たちが交わす小さな会話の一つ一つにも大なり小なり、人生の哲学的な部分が現れている箇所もあり、読み進めるたびに「確かにそうだよな」と新たな見え方と既存の価値観の再認識をする感覚になるのが、個人的には痛快でした。
本書のタイトル『逆ソクラテス』。ソクラテスは無知の知を説いたわけですが、それとは逆の「中身がないにもかかわらず自分の知を主張する様」これがタイトルの意であるようで、特に一つ目の作品についてはこの「逆ソクラテス」が顕著に現れています。
1作目は、とある生徒に対して常に強く当たる教師の姿が描かれています。何につけても才能がないといった教師の勝手な”思い込み”や”価値観””先入観”の数々が、教師の言動のなかに見え隠れしてます。
この話を読み進める中で、自分の中での決めつけって多分にあるものだと、ひとり考えました。日々生活をする中では、街を歩くにしても、家の中にいても、仕事や授業、人との会話の中などで、気づかずに多くの”決めつけ”がそこには発生していると思うのです。
それは、人生をより効率よく生きるために必要なことなんかも中にはあったりして、物事を脳内でより早く処理するために生まれた”良い決めつけ”や”必要な決めつけ”もあるでしょう。
ですが、本作の先生の話で言えば、人の成長を阻害することや人の感性や才能を否定する、いわば”悪い決めつけ”が作中幾度か散見されます。こうした悪い決めつけは、その人(本書でいえば先生)がそれまで過ごしてきた人生の中で培ってきた価値観が、さらに生み出した結果でもあると思うのです。
そうした視点から考えてみますと人生においては、自分の中の見識を広げたり、多様な価値観に触れてみたり、確固とした美しい哲学を見出すことがいかに大切であるのかを痛感させられた様に感じました。
作中の先生には、稲盛和夫さんの『生き方』を一読してほしいものです。
『逆ソクラテス』の中には真面目さについてがテーマになった話もあります。
「正直者はバカを見る」なんて言葉もよく使われますが、日常の様々な場面において、嘘をついていたから穏便に済んだという経験を、生きていれば誰しも大なり小なり経験するでしょう。
確かに、全てを正しく伝えなかったから事が済む場合もあります。ですが、果たして「正直者はバカを見る」のでしょうか。私は全ての場合においてそうとはいえないものの、やはり正直に答えることの方が大切だと思うのです。
当たり前ではありますが、とはいえ大人になればなる程これを難しいと感じるのが現実だとも思います。
仕事でのミスも、友達や大切な人たちとの些細なすれ違いも、小さな嘘をつけばその場の問題は解決に至りますが、やはり小さな嘘はのちに増大することもある。そして、その小さな嘘が結局自分の首を絞めることも少なくない。
保身のための嘘はなくし、ある意味で”嫌われる勇気”や”叱られる・怒られる勇気”といった、避けたくなるものに飛び込んで正直になる、真面目に生きるといった真っ直ぐな心を今一度育んでいきたいものです。
「聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥」という言葉に近いニュアンスが、ここにはある気がしました。
---本書は物語の展開としても、小学生なりの覚悟も相まったワクワク感がそこにはあって、大変引き込まれる思いで読み進められる作品でした。
生きていく上で大切にすべきことを、こうした文学作品を通してもゆっくりと再考したいものです。