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本当の「利他」を考える - 伊藤亜紗さんら共著『「利他」とは何か』

8 November, 2021
本当の「利他」を考える - 伊藤亜紗さんら共著『「利他」とは何か』

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利他、利他、とよく聞く言葉ではありますが、利他という行為がこんなにも奥深く難しいものであると思いませんでした。大変難しい。そう感じたのが読後の率直な感想でもあります。

コロナにより私たちの生活は多様な苦痛を伴うこととなりました。こうした世の中だからこそ大切にしたい「利他」の精神には、ただ人に施せばそれでおしまい、と簡単なことでもないように感じさせられるのです。

共存が重要視されるこの世の中において、私たちが大切にすべき思いやりの心の本質に改めて触れてみます。

多角的な考察『「利他」とは何か』


本書は、美学者の伊藤亜紗さん、政治学者の中島岳志さん、批評家で随筆家の若松英輔さん、哲学者の國分功一郎さん、小説家の磯崎憲一郎さん(1)の5人の方々による共著です。

皆様ご自身の専門的な立場から「利他」について多様な考察がなされ、利他という行為がただ人のために施すということだけにとどまらないことを思い知らされます。

特筆すべきは、利他という行動にも負の側面が生じることもあるといった点。簡単にいえば「助けてあげたんだから何かお返しをくれるはずだ」「これだけやったし、きっと自分の思うように考えるはずだ」と恣意的とも取れるように利他を行うこと。

これは利他の本質的な部分ではないということです。

ですが、利他にはそうした自分本位な考え方を自然と行なってしまう危険があることに気付かされます。

魚の釣り方を教えるか、それとも魚をやるか


個人的にかなり唸った一説に次のような部分があります。

ハリファックスは「真の利他性は、魚の釣り方を教えること」だと言います。
伊藤・中島・若松・國分・磯崎, 「利他」とは何か, 集英社新書


私たちはしばしば他人に何かをしてあげようとするとき、全てをやってあげるということを頭に浮かべてしまいがちであると思います。特に困っている時であれば尚のこと。良かれと思って全てをやってしまう部分は少なからずあるはずです。

どうしてもなんとかしてあげたい!という思いが先走ってしまって、これは仕方のないことだと思うのですが、ですが先の一説をみたときにハッと気付かされます。

その時に問題は解決しても本質的な解決方法を助けてあげた・やってあげた相手に対して、うまく示したり考えてもらうことができない。それはつまるところ、この先また悩みに直面した時に、うまく解決できないことにもつながるのだと。相手の考える力を奪ってしまうことになりかねないと思います。

職場で書類の作成に困っている人がいた際に「いいよ私やってあげる!置いといて!」では、この先も同じような書類作成に困る場面が出てくる。日常レベルで言えばこういうことであり、相手を思いやるという行動が短期的な視点だけで考えてしまってはいけないことを気付かされます。

自分中心の「利他」


先にも紹介した通り、「利他」においてデメリットとも取れる部分として恣意的な利他に陥るといったことをご紹介しましたが、この部分についてももう少し触れたく思います。

本書全体を通した印象として、利他に備わる負の面に自分の利益を考えたような恣意的な利他があったと感じています。

「やってあげたんだから何かちょうだい?」といった見返りを求める姿勢は容易に想像も付き、確かに問題であると思うのですが、ここで考えるべき問題は、自然と出てしまう負の利他です。

言葉は良いものではありませんが「ありがた迷惑」というのが分かりやすいかもしれません。自分は相手が喜ぶと思ってやった行動も、そこには受ける側にとって問題となる部分があったりします。時にそこには、受ける側の自由を阻害することもある。結果的に間接的に相手を支配しかねでしょう。

「ありがた迷惑」ととられる行動も大抵が我慢できることかと思いますし、さほどの問題でいかもしれません。ですが、時にそうしたありがた迷惑が相手の自由や尊厳を奪ってしまいかねないことも大変考えさせられました。

またこの問題の厄介な核として、やった本人は「良いことをしてあげた」と良い気分に満たされる。

ここでは深く言及しませんが、本書をご一読いただくとどのような自由や尊厳を奪いかねないかが見て取れるかと思います。適切な思いやりの心を持てるように、日々色々な立場にたって物事を見たいと考えさせられました。

--- 日常においてはついつい良いことをしてあげたくなるものですが、本当の意味で相手を思いやるなら、変に深入りしすぎないことも大切なのかもしれません。

ソーシェルディスタンスを意識するようになりましたが、意味のある利他を行えるようにするためにも、適切な心のディスタンスというのも日々模索していきたいものです。

(1)皆様の肩書きにつきましては、本書背表紙に記載されているものを参照させて頂きました。

About the Author

suda

suda

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知的好奇心旺盛な20代。多趣味で、読書とプログラミングが好き。夢は妻と併用の木の温もりを感じる書斎を設けること。