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『コーヒーが冷めないうちに』が発売されて話題を読んでいたその当時、本書を手に取っていたのですが、なんだかんだ読まず終いでおり、先日やっとゆっくりと読み直すに至りました。
家族や恋人など大切な人との関わりの中で生まれる物語は、後悔や悲しみの先にある本当の愛や希望に触れる瞬間、そんな小説を読みたい方であったり、なかなか現実に前向きになれない方に特におすすめの一冊です。
著者は川口俊和さん。大きな人気を呼び、2018年には映画化もされました。また『この嘘がばれないうちに』『思い出が消えないうちに』『さよならも言えないうちに』とシリーズ化もされています。
舞台は「過去に戻ることができる」と噂の「フニクラフニクラ」という喫茶店。
夢を追う彼氏と別れることになった女性と、若年性アルツハイマーである夫を持つ妻、旅館を営む実家から家出をした姉に帰ってきて欲しいと会いにくる妹、生まれつき体が弱いながらも子供を授かった妊婦という4人の女性を軸に物語は展開されていきます。
それぞれの登場人物たちが過去においての後悔や微かな希望を元に、それぞれ時間を遡ったりしながら、前を向こうと懸命になる姿が描かれており、大変心温まる1冊です。
この喫茶店で過去に戻るにはいくつかの決まり事があります。その一つに「過去に戻ったとしても現実は変わらない」というものがありました。これが物語に強いメッセージ性を生み出していると私は感じます。
それぞれ過去に戻ったりしながら、その当時には知り得なかった相手の本心であるとか小さな希望といったものを手に入れて現実に帰ってきます。
戻ってきても現実は何も変わりません。何かを知ることはできても、現実での”結果”としては何も変わっていないのです。ですが、現実へ戻ってきた彼女たちはその現実を受け入れて力強く新たな一歩を踏み出そうと奮闘します。
こうした4人の姿からは、目の前の現状に対してただ嘆くのではなく、それを受け入れどう行動していくか。このことがいかに大切なのかを気づかされます。
私たちは長い人生において、時に大きな後悔をすることがあります。
日常的な人間関係や仕事などから「取り返しのつかないこと」をしてしまうことは1つや2つ長い長い人生のおいては必ずあると思うのです。ですがそうした場面において、嘆き後悔するのではなく、それを受け止めた上でどういった一歩を踏み出していくか。
大変当たり前のことではありますが、現実を受け入れて進んでいくには時間もかかり、大人になっても難しいものです。ですが、そこに人としての芯となるもの、核となるものがあると思っています。
そういった意味でも、嘆き悲しみ、大きな後悔に苛まれながらも一歩を踏み出す彼女たちには、物語の暖かさと合わせて力強さを感じました。
4人はそれぞれ時間を巻き戻したりすることで相手の本当の心を知り、そうした本心を知った時、巻き戻した4人が一歩を踏み出す思いに突き動かされるわけですが、ここには本当の愛というものも感じたように思います。
現実を受け入れる勇気を持つこと。これには、大変な労力が必要です。
その原動力となっているのは紛れもなく其々家族や大切な人との間に生まれる本当の愛であり、4人それぞれの物語で感じられる本当の愛こそが、本書から感じられる温かさともなっている気がしました。
---やはり読了後も「過去に戻れるなら現実が変わるアクションを起こしたいよな」と一人思っております。それだけ、今の現実をうまく受け入れられていない部分が少なからずある証拠でもある気がして、ムズムズします。
現実を受け入れることは難しいことではあるのですが、逆に言い換えればそれをバネにしてより充実した人生に変えていくこともできることでもあります。結局人生は全て自分次第だなと考えさせられるところです。